概要
電界強度測定装置(電界強度計)は、ある地点における電波の強さを測定する装置で、 放送や無線通信のサービスエリア確認、放送受信工事、妨害波測定などにおいて使用される。
電界強度の測定は、利得の校正されたアンテナを使用して、 アンテナに誘起された電圧を測定用受信機(電界強度計)で測定することにより行なう。 測定値は、実効長1mのアンテナに誘起する電圧に換算して、例えば dBμV/m のように表わす。 電界強度測定用のアンテナは、周波数ごとに校正されており、 実効長1mのアンテナとの利得差が補正係数として示されているので、 電界強度計と組み合わせることにより電界強度を求めることができる。 アンテナの形状には、ループアンテナ、ダイポールアンテナ、バイコニカルアンテナ、 対数周期アンテナなどがあり、測定周波数や使用場所などの条件に応じて選択する。
テレビ放送受信工事やCATV工事では、主に受信機へ入力される放送波の電圧を測定する目的で 電界強度計が使用される。この場合の測定値は、電界強度ではなく端子電圧であり、 一般的には「シグナルレベル」、または単に「レベル」と呼ばれている。 測定値は通常、0dBμV(75Ω終端値)を0dBとした dBμV 単位で表わされる。
1.テレビジョン放送用の電界強度測定装置
テレビジョン放送用の電界強度計は、アナログ放送とデジタル放送について、 それぞれに合った測定機能を備えている必要がある。 アナログ放送専用の電界強度計でデジタル放送のレベルを正しく測ることはできないし、 また、デジタル放送専用の電界強度計でアナログ放送のレベルを正確に測ることもできないため、 どちらの場合にも使用する電界強度計の仕様には注意が必要である。
近年のテレビジョン放送用電界強度計には、レベル測定機能に加えて、 デジタル放送特有の測定機能を備えたものがある。 これは、デジタル方式の性質上、レベル測定だけで受信マージンを知ることが困難だからであり、 デジタル放送の受信状態を評価するためには、レベルともに、 MER(Modulation Error Ratio=変調誤差比:技術解説参照)、 BER(Bit Error Rate:ビット誤り率) などの項目が重要である。
(1)地上波放送のための電界強度測定装置
従来の地上波アナログ放送は、VHFまたはUHFの映像搬送波を、 コンポジットビデオ信号で振幅変調することにより映像が伝送されている。 変調極性が負であるため、同期信号部分で搬送波は最大振幅となり、 アナログ放送のレベルは、通常この同期信号部分のレベルで表わされる。 アナログ放送用の電界強度計は、同期信号パルス(4.7μs)の尖頭値を捉えるため、 300kHz程度の測定帯域幅を有し、ピーク検波回路を備えている。 また、映像搬送波と独立した音声搬送波があり、周波数変調により音声が伝送されている。
現在、地上デジタル放送のサービスエリア拡大に先立ち、 各地域ごとに必要な空きチャンネルを確保するために、 既存のアナログ放送を別の周波数に移行する作業(アナアナ変換)が行なわれているが、 この作業にはアナログ放送のレベル測定が必要である。
一方、デジタル放送では、アナログ放送とは異なった測定方法が必要となる。 日本で採用されているISDB-T規格による地上デジタル放送は、 OFDM (Orthogonal Frequency Division Multiplexing) 方式であり、 数千本のキャリアが5.57MHz の帯域幅一杯に非常に近接して並んでいる。 電力が帯域全体に分布しているため、レベル測定は、全てのキャリア電力の総和を測る必要があり、 アナログ放送用の電界強度計では正しく測定できない。 地上デジタル放送のレベルを測定する方法としては、 帯域内の代表点において数100kHz程度の帯域幅で測定した結果をもとに、 5.57MHz 帯域相当の値に換算する方法がある。
しかし、実際の受信条件では、反射波によるマルチパスの影響などで帯域内の 周波数スペクトラムが平坦にならない場合が多いので、誤差の少ないレベル測定を行なうためには、 5.57MHz の帯域全体にわたって測定する方式の電界強度計を使用する。
地上デジタル放送は、ブースタアンプなどで生じる非線形歪みの影響を受けやすい性質があるほか、
マルチパスや混信などによる受信障害が発生する可能性がある。
このため、受信品質の評価にあたっては端子電圧だけでは不十分であり、MER、BERの測定と、
チャンネル帯域内の周波数スペクトラムや遅延プロファイル(技術解説参照)
の測定によるマルチパスの確認が重要である。

[図1] デジタル放送の測定

SIGNAL LEVEL METER LF 985
(LF 985 OP71付き)
(LF 985 OP71生産中止の代替機種:LF 52/990→)
[写真1] 地上デジタル放送の受信品質
測定に対応した電界強度計

[写真2] 遅延プロファイル測定結果の例

[図2] 地上デジタル放送のレベル測定
写真1は、地上デジタル放送および衛星デジタル放送の受信品質測定に対応した電界強度計の例であり、
アナログ放送とデジタル放送のレベル測定のほか、
デジタル放送のMERとBERを現場で容易に測定することができる。
この機種では、地上デジタル放送のレベルを、
図2 のような多点測定により帯域内を隙間なく測定して求めているので、
マルチパスの影響があっても高精度な測定を行なうことができる。
また、コンスタレーション表示機能により、MERを視覚的に捉えることも可能である。
さらに、簡易スペクトラム表示機能や、遅延プロファイル測定機能も備えている。
(2)CATVのための電界強度測定装置
アナログ方式のチャンネルは、基本的に地上波と同じ方式であり、レベル測定の方法も同じである。
CATVデジタル放送の変調方式は、ITU-T J.83 Annex C 規格に準拠した64QAMが主に使用されているが、 地上デジタル放送の再送信については、64QAM に変換して送信する方式のほかに、 OFDMのまま周波数変換せずに送信する「同一周波数パススルー方式」と、 同じくOFDMのまま周波数だけを変換して送信する「周波数変換パススルー方式」がある。
パススルー方式の場合、測定に使用する電界強度計も、OFDMに対応したものが必要である。 また、BSデジタル放送のパススルー方式もあり、これは、BS -IF をCATV帯の周波数に変換して伝送し、 受信側で再び周波数変換して BS-IF周波数に戻す方式のため、 レベルは帯域幅34.5MHz の8PSKに対応した電界強度計で測定する。
インターネット接続サービスは、双方向の通信であり、局側から加入者側への信号を「下り」、 加入者側から局側への信号を「上り」と呼んでいる。 日本の CATVでは、一般に下りは 50MHz以上、上りは 50MHz以下の周波数帯が使用されており、 変調方式は 16〜64QAM が主流である。
CATVでは、アナログ放送チャンネル、デジタル放送チャンネル、 パススルー方式によるデジタル放送の再送信チャンネル、 インターネット接続サービス用のチャンネルなどが混在しており、 電界強度計も、これらの各変調方式に対応していることが必要となる。 CATV用電界強度計のなかには、QAM信号のBER 測定やコンスタレーション表示機能、 インターネットのIP接続確認機能などを備えた高機能な専用機種もある。
周波数の異なる数十から百程度の放送チャンネルを単一の線路で伝送するCATVでは、 中継増幅器での混変調歪みが発生しやすいため、各段の増幅器の信号レベルや周波数特性の調整、 管理が非常に重要である。 このため、複数のチャンネルのレベル測定値を同時に表示する機能を備えた電界強度計が使用される。 また、ビルや集合住宅などの共同受信工事では、各部屋の端末レベルを記録する必要があるため、 CATV用の電界強度計は、大量の測定データを保存あるいは印刷したり、パソコンへ転送する機能を備えている。
(3)衛星放送のための電界強度測定器
衛星放送の受信アンテナは、LNBと呼ばれる周波数コンバータ部と一体になっていて、 放送波は、このコンバータで1〜2GHz程度のIF(中間周波)信号に変換されて、 同軸ケーブルでチューナまで伝送される。 衛星放送用の電界強度計は、このIF信号の電圧を測定するものである。 また、コンバータは、同軸ケーブルを通してチューナから電源供給を受けて動作するため、 衛星放送用の電界強度計も、コンバータへの給電機能を備えている。
日本の衛星放送は、すでにBSの一部チャンネルを除いてデジタル方式となっており、 BSデジタル放送と110度CSデジタル放送は、 ISDB-S規格に準拠した帯域幅34.5MHzの8PSKまたはQPSK、JCSAT-3号と4号のCSデジタル放送は、 DVB-S規格による帯域幅27MHzのQPSKである。 衛星により伝送周波数帯域幅が異なるので、これらのIF信号レベルを正しく測定するためには、 それぞれに合った測定帯域幅で測定することのできる電界強度計を使用する。
衛星放送では、IF信号が受信機の所要入力レベル以上であっても、 C/N(キャリアとノイズの比)が低いと良好な画質は得られないため、 C/N測定が必要となる。 とくにデジタル放送では、C/Nがある値より低下すると再生画像が急激に破綻する特性があるため、 降雨などで衛星からの電波が減衰してC/Nが劣化することを考慮し、 設置時にC/Nを測定して充分な余裕を確保しておくことが望ましい。 また、IF信号レベルやC/Nとともに BERを測定することで、 より確実に受信状態を把握することができる。

